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2015年12月29日火曜日

団地って、ヘン

 団地って、ヘン。

 野良猫がたくさんいる。でもペットは禁止。
 ニャー
 おいで、おいで。
 ニャー
 Fさんに買ってもらったトマトあげるからおいで。
 ニャー
 ちっ。こない。鳴くばかりでこないやつ。近づくと逃げるやつ。よくいるタイプそのいち。寂しいわりには人間不信の。誰かさんみたいな。
「あの、気分を害されたらごめんなさいね」
 知らないおばさん登場。あるある、よくある。団地では。
「猫、お好きなようだから」
 仲間かな。と思いきや。
「できたら、猫に優しくしないでくださいね。ほら、野良でしょ、不衛生で困っちゃうんですよ」
 なんの話かさっぱりわからないんですけど。猫が不衛生で困るのは猫だけでしょ。病気とかうつるから。
「わたしも見かけたら追っ払うようにしてて、でも猫だから、恨まれるかなってちょっとこわいんだけど」
 石を投げつけろと? しっしってやったくらいじゃ住みかを変えないと思うけど。
 嫌がらせで出て行く猫。しょんぼりとうなだれて、とぼとぼ団地を出て、道路の向こうに姿を消す。なんて繊細な。
 地域に迷惑かもしれないから、餌はあげてません。っていうか団地に野良猫が多いのって変じゃないですか?
「みんな飼ってるのよ。とんでもないですよ。管理の人たちは『ペット禁止』の看板を立てればそれでいいと思ってるんだから。ちっとも当てになりゃしない」
 まじですか。犬散歩してる人とか、外部の人が入り込んでるのかと思ってた。団地は緑が多いから。じゃあ昨日のおばさんも……?
「言っちゃ悪いけど、ここなんか人間の住むところじゃないですよ。お風呂に換気扇ついてないし」
 ええー、そんなことで? でも同じことを地元に対して思ってた。この地元嫌いときた日には。
「トイレにだってふたないでしょ。どうしてる?」
 別に気にしてませんけど。
「いいこと教えてあげる。布のトイレカバーだけ買ってきて、プラスチックかなんかの板をなかに入れて、便座の上に置けばいいのよ。最初から入ってる紙の板だと湿気てふにゃふにゃになっちゃうからね。見せてあげる」
 わざわざ持ってきてくれた。こりゃすごい。
「とにかく、話それちゃったけど、なるべく、猫に優しくしないでくださいね」
 わかりました、わかりました。そうでも言わないことにはどうしようもない。

 散歩に出て行って帰ってきたら、さっきのおばさんと偶然ばったり。同じ棟の同じ階段だけど。
「さっきはごめんなさいね。失礼しましたっていうお手紙入れておいたんだけど」
 それはわざわざご丁寧に、むしろありがとうございます。そういうのって嬉しいです。
 共同ポストのなかの手紙。なんだか変な字でほとんど読めなかった。

 団地って、ヘン。変な人がいて、変な会話があって。
 変なのは、おもしろくて、好きだから、まあいいや。

***

エッセイとして書いたもの。
横書きでよさそうな文体のため、このまま公開。
2014年。

2015年12月28日月曜日

人工楽園(ボードレール)

親愛なる女友に

普通に考えてみましても、この地上の物象の存在は、きわめて薄弱なものであり、真の現実は夢幻のなかにのみあるのです。自然の幸福を消化するためにも、人工の幸福を消化するためにも、まずそれを飲みくだす勇気を持たねばなりません。そして、おそらく、はかない人間どもが考えている福楽などが常に嘔吐剤としての働きしかあらわさぬような人々こそ、まさに幸福を受けるに値する人々であります。
(中略)
もとより、この献書の理由が理解されようとされまいと、少しもたいしたことではありませぬ。(中略)わたしは、生きている世界にはじつに興味がありませんから、感受性が鋭く所在ない女性たちがその打ち明け話を仮想の友達等に手紙で書き送るように、わたしもまた好んで死人だけを相手にして物を書きたいのであります。

人工楽園 献辞より(ボードレール)

2015年12月25日金曜日

沖の少女(シュペルヴィエル)


日が暮れるまで、牡牛とロバは草を食べにでかけていった。普段は理解するのに手間取る石たちなのに、野原ではすでに知っている石がたくさんあった。牡牛とロバが出会ったことのある石ころなどは、色と形を少し変えて、了解ずみであることを彼らに教えてさえいた。
また野の花のなかにも知っているものがあって、食べるのを遠慮しなければならなかった。冒涜の罪を犯さずに野原で草をはむのは、骨の折れる仕事だった。そして牡牛には、食べることが次第に無益なことに思われてきた。幸福感が、彼を満腹にしていた。
水を飲む前にも、こう考えた。「ところで、この水は知っているのだろうか」
疑わしいときには、飲むのをさしひかえ、少し遠くの、まだなにも知らないことがはっきりわかる泥水のほうへ行った。
それでも、ときには、水を飲みこむ瞬間にのどに感じる無限のやさしさによって、やっとその水が知っていることがわかった。
「しまった」と牡牛は思った。「飲んではいけなかったんだ」
呼吸するのさえひかえめにした。 空気がなにかしら神聖に思えて、なにもかも了解しているように思われた。天使を吸いこんでしまうおそれがあった。

牡牛の祈り
「イエスよ、あなたの光を少し、わたしのなかにあるこのすべての貧しさや混乱に注いでください。小さな手や足がとてもきれいに身体についているあなたの上品さを、少し授けてください」

まぶねの牡牛とロバ

2015年12月19日土曜日

ゆめみるめざめ

夢のなかで夢をみて、ユウはさまよい続ける。
夢から夢へ、めざめからめざめへ。

ガスマスクの転がる誰もいない部屋、道化と暴君、無限のらせん階段、砂漠の奴隷、お金でできた大都会、がらくたの海と海賊、不思議な神殿、みんなが眠っているまっ白い部屋……
シュールな幻想の数々。

真のめざめとは。
8つの物語からなる連作短編。大人の童話。